【2021年(令和3年)】障害福祉サービス報酬改定を解説

障害福祉サービス事業の報酬改定について、厚生労働省障害福祉サービス等報酬改定検討チームから、改正内容が示されました。今回は、2021年(令和3年)4月からの障害福祉サービス事業報酬改定の内容をお伝えしていきます。


  • 2021年(令和3年)4月からの報酬改定って何が変わるの?
  • 報酬改定の内容を詳しく知りたい

2021年(令和3年)障害福祉サービス事業報酬改定の内容を把握し、情報を整理していきましょう!

1.障害福祉サービス報酬改定の経緯

障害福祉サービス事業は、介護保険事業と同様、法改正が頻繁にあります。特に3年に1度、大きな報酬改定がやってきます。これにより、基本報酬や加算、事業所の人員要件等が変わってきますので、事業運営もその都度見直さなくてはなりません。

では、報酬改定の経緯をみていきましょう。

まず、法改正年度ごとに全体の改定率が示されます。

  • 平成21年度改定+5.1%
  • 平成24年度改定+2.0%
  • 平成27年度改定±0%
  • 平成30年度改定+0.47%

これ以外にも、改定率の改正時期はありましたので、一概にこの数字だけを見て言えませんが、徐々に低くなっている傾向にあります。

そして、前回改定(平成30年度)から、報酬改定の主要事項として「サービスの持続可能性の確保」と言う文言が出てきました。これは、全体報酬をコントロールし、制度運用自体を持続させる視点も含まれています。

改定ごとに影響を受けるサービスが違ってきますが、前回改正では、特に就労継続支援A型にとって厳しい内容であった言えます。

|収支差率とは…

報酬改定の中身を決めていく重要な指標に、障害福祉サービス等経営概況調査での「収支差率」があります。※直近の令和2年経営実態調査によるもので説明

収支差率とは、障害福祉サービス等事業での利益率のことです。もちろん、法人の形態や規模により肌感覚とは異なりますが、報酬改定の参考とする数値とされています。

障害福祉サービス経営実態調査の説明
障害福祉サービス経営実態調査の結果数値

令和元年度の収支差率として、全サービス平均で5.0%となっています。この中で、比較上、数値の高いサービスが見直しの重点対象とされます。

このあたりは、全体予算を抑えたい厚労省として、今後も事業所数を増やしたいサービスと締め付けに入るサービス等の思惑も入ってきます。※平成30年度から新しく加わった共同生活援助(日中サービス支援型)等のサービスについては、集計件数が少なく、参考数値と捉えられております。

2.障害福祉サービス2021年(令和3年)報酬改定の方向性と狙い

  • 令和3年度改定の改定率:+0.56%

※うち、新型コロナウィルス感染症に対応するための特例的な評価+0.05%(令和3年9月末までの間)

|基本報酬と加算

報酬には、大きく基本報酬と加算とに分けられます。加算される金額は、サービスの種類や内容、サービスを提供する時間帯・緊急度などによって異なります。

加算例:

  • 送迎や時間延長のように、基本的なサービスに追加された業務に対しての加算
  • 事業所等で働くスタッフの体制強化、資格に応じた処遇改善などへの加算

加算は、厚労省が望んでいる事業運用を促す、メッセージと言う側面もあります。

基本報酬と加算の割合は、基本報酬が減算し、加算割合が増えていく方向性です。この流れは、今後も変わらないでしょう。

|2021年(令和3年)報酬改定の主要事項

今回の改正での主要事項として6項目が挙げられています。

  1. 重度化・高齢化を踏まえた地域移行・地域支援や報酬体系の見直し
  2. 就労支援(就労定着支援・就労移行支援・就労継続支援)の報酬等の見直し
  3. 医療的ケア児等、障害児支援の推進
  4. 地域包括ケアシステムの推進
  5. 感染症や災害への対応力強化
  6. サービスの持続可能性の確保と適切なサービス提供を行うための報酬や加算の見直し

上記、6項目が今回改正の主要事項となっており、これに沿って各サービスで改正点が決まっていきます。後にも出てきますが、2021年(令和3年)報酬改定では、特に重度化・医療的ケアが重要なポイントとなっております。

3.全サービス共通の改正内容

これから、全サービス共通の主な改正内容を列挙していきます。

|感染症対策の強化

  • 委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施を義務づけ ※3年の経過措置

|業務継続に向けた取組の強化

  • 業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練の実施等を義務づけ ※3年の経過措置

|障害者虐待防止の更なる推進

  • 従業者への研修実施(義務化)
  • 虐待防止委員会を設置し、委員会での検討結果を従業者に周知徹底する(義務化-新規)
  • 虐待の防止等のための責任者の設置(義務化)

※ 3年の経過措置後、令和4年度より義務化

|身体拘束等の適正化の推進

  • 身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を定期的に開催、従業者へ周知徹底
  • 身体拘束等の適正化のための指針を整備
  • 従業者に対し、研修を定期的に実施

※令和3年4月から努力義務化し、令和4年4月から義務化

※やむを得ず身体拘束等を行う場合の記録については、令和3年4月から義務化

|福祉・介護職員等特定処遇改善加算等の見直し

  • 従来からの処遇改善加算の減算区分であるⅣおよびⅤ、処遇改善特別加算について、1年の経過措置を設けた上で廃止
  • 特定処遇改善加算の配分ルールの緩和

|障害福祉現場の業務効率化のためのICT活用

  • 委員会等や、身体的接触を伴わない支援、必ずしも対面で提供する必要のない支援について、テレビ電話装置等を用いた対応が可能

|人員基準における両立支援への配慮等

  • 「常勤」の計算:職員が育児の短時間勤務制度を利用する場合に加えて、介護の短時間勤務制度等を利用する場合にも、週30時間以上の勤務で「常勤」として扱うことを認める
  • 人員基準や報酬算定において「常勤」での配置が求められる職員が、産前産後休業や育児・介護休業等を取得した場合に、同等の資質を有する複数の非常勤職員を常勤換算することで、人員基準を満たすことを認める

⇒この場合、常勤職員の割合を要件とする福祉専門職員配置等加算等の加算について、産前産後休業や育児・介護休業等を取得した当該職員についても常勤職員の割合に含めることを認める

|食事提供体制加算の経過措置の取扱い

  • 今回の報酬改定においては、経過措置を延長する

|送迎加算の取扱い(就労継続支援A型・放課後等デイサービス)

  • 送迎加算の現行の枠組みは維持

4.サービス別改正内容

それでは、サービス種別ごとの改正内容を列挙していきます。

【訪問系サービス】

|居宅介護

  • 居宅介護職員初任者研修課程修了者であるサービス提供責任者に対する評価の減算見直し

|重度訪問介護

  • 移動介護緊急時支援加算の新設

|同行援護

  • 同行援護従業者要件の経過措置を令和5年度末まで延長

|行動援護

  • 行動援護の従業者及びサービス提供責任者の要件の経過措置を令和5年度末まで延長

|重度障害者等包括支援

  • 「寝たきり状態にある者」に係る対象者要件を緩和

【日中活動系サービス】

|生活介護

  • 常勤看護職員等配置加算に、新たな評価区分を創設
  • 重度障害者支援加算の見直し
    • 「重症心身障害者を支援している場合」に算定可能となる区分を創設
    • 加算算定期間の延長及び加算の単位数を見直す

|短期入所

  • 対象者要件の見直し
  • 特別重度支援加算の見直し
  • 日中活動支援の充実のための、加算を新設

【居住支援系サービス】

|共同生活援助(グループホーム)

  • 現行報酬より重度者と中軽度者の報酬の差を拡大し、メリハリのある報酬体系に見直す ⇒「メリハリのある報酬体系…」この言葉は、よく出てきますが、低いところと高いところの差を拡大させることですから、事業所によって影響具合が大きく異なってきます。
  • 重度障害者支援加算の対象者の拡充
  • 医療的ケアが必要な者に対する支援を評価する加算を新設
  • 強度行動障害者体験利用加算の新設
  • 夜間支援等体制加算を、入居者の障害支援区分に応じたメリハリのある加算に見直す ⇒ここでも「メリハリのある…」の文言が出てきています。これまでの区分によっては、大きな影響となります。
  • 住居ごとに常駐の夜勤職員に加えて、事業所単位で夜勤又は宿直の職員を配置し、複数の住居を巡回して入居者を支援する場合に評価する加算を新設する
  • 個人単位で居宅介護等を利用する場合の経過措置を令和6年3月31日まで延長する

|自立生活援助

  • 基本報酬の対象者の見直し
  • サービス管理責任者と地域生活支援員の兼務を認める人員基準の緩和
  • 市町村審査会の個別審査を要件とした上で、複数回の更新を認める
  • 同行支援の回数に応じて評価する同行支援加算の見直し
  • 夜間の緊急対応・電話対応の新たな評価⇒緊急時支援加算(Ⅰ)(Ⅱ)新設
  • 居住支援法人・居住支援協議会と福祉の連携の促進⇒居住支援連携体制加算・地域居住支援体制強化推進加算新設

居住支援法人との連携のための加算が新設されます。

【居住支援法人】制度や補助金の解説は、こちらから!

【就労系サービス】

|就労継続支援A型

  • 5つの観点から成る各評価項目の総合評価をもって実績とする、スコア方式に見直す
  • スコア方式による評価内容を全て公表することを事業所に義務付け、未公表の場合には基本報酬を減算
  • 就労移行連携加算の新設

|就労継続支援B型

  • 「利用者の就労や生産活動等への参加等」をもって一律に評価する報酬体系を新たに設け、事業所ごとに選択
  • 高工賃を実現する事業所について、基本報酬において更に評価する基本報酬の区分の見直し
  • 地域協働加算の新設
  • ピアサポート実施加算の新設

【障害児通所支援】

|児童発達支援及び放課後等デイサービスにおける共通事項

  • 医療的ケア児に係る判定基準を見直し、判定基準のスコアの点数に応じて段階的な評価を行う「医療的ケア児」の基本報酬区分を創設
  • 医療連携体制加算の見直し
  • 看護職員加配加算の見直し
  • 看護職員の基準人員の取扱いの見直し
  • 人員基準を、現行の「障害福祉サービス経験者」を廃止 ※既存指定事業所は2年間の経過措置
  • 著しく重度及びケアニーズの高い児童を支援した場合の評価として個別サポート加算(Ⅰ)を新設
  • 虐待等の要保護・要支援児童を支援した場合の評価として、個別サポート加算(Ⅱ)を新設
  • 児童指導員等加配加算の見直し及び専門的支援加算の新設 ※児童発達支援における専門的支援加算の算定要件については、児童福祉事業について5年以上経験のある保育士・児童指導員についても、専門職の職種の対象に含める

|放課後等デイサービス

  • 「医療的ケア児」の基本報酬区分が創設されることから、現行の区分1・区分2の報酬体系を廃止
  • 極端な短時間(30分以下)のサービス提供については報酬(基本報酬及び加算)を算定しない ※市町村が認めた就学児は算定OK
  • 欠席時対応加算(Ⅱ)の新設

放課後等デイサービスでは、区分や加算の変化により、事業所によっては減算となることも予測されます。また、人員基準が厳格化されますので、新規開設時には要件をよく確認してご対応ください。

5.まとめ

2021年(令和3年)障害福祉サービス報酬改定の主な内容を、お伝えしてきました。障害福祉サービス事業は、法改正が頻繁にあります。改定内容を追い続けることは、もちろん重要ですが、中長期的な視点での戦略や運用が必要不可欠です。

これから障害福祉サービス事業所の開設をお考えの方、既に運用されている方へ、指定申請や各種届出を代行サポートさせていただきますのでお気軽にお問い合わせください。

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